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初版公開:2012年10月31日


●数葬

 前へ進んで左へ曲がって音の速さでそれをして、海に潜って浮き上がって陸へ上がってまた少し前へ進んだところに、一匹の変な生き物のような何かがいました。
 そいつの目は胡麻みたいで、そいつの口は紐みたいでした。
 そいつはいつも思っていました。

  ぼくはどうしていきるのだろう

 そいつはもうずっと生きていました。
 あの町までゆっくりゆっくり歩いていって、そうして戻って、何度も何度もできるくらい。

  かれらはどうしてしぬのだろう

 そいつは何度も、色んな奴らと交わりました。
 似たような、色んな奴らがそいつから這い出てきて、気付いたときには死にました。みんな。

  ぼくはなぜしなぬのだろう

 そいつは初めてそう思い、物知りのずっくんに会いに行きました。

  ぼくはどうしてしなぬのだい

    それはね、君が増えぬからだよ。

  どうしてふえぬとしなぬのだい

    皆は増えると死ぬのだよ。だけども君は増えぬだろう?

  たしかにそれはそうかもな

    私も増えればいつかは死ぬさ。

  ぼくもふえればしねるかな

    ああ死ねるとも。勿論さ!

  ぼくはどうすりゃふえるかな

    そうだね、熱せば増えるのでは?

  それがいいややってみよう

 こうしてそいつは、燃えるからだのぶーくんに会いに行きました。

  ぼくをねっしてくれぬかい

    お安い御用さ。ボウボウボウ!

 けれどもそいつはそのままでした。
 仕方がないからまたずっくん。

  ねっしたってだめだった

    それじゃあ、逆に冷やしてみたら?

  そうだねそれもやってみよう

 冷たさ自慢のごんくんに。

  ぼくをひやしてくれないかい

    何故だい?

 訊きつつ、凍らすごんくんでした。

  ありゃりゃだめだね

 融けてしまって、生きてたそいつ。

  ひやしたってだめみたいだ

    言われてみれば、そりゃそうだ。熱して駄目なら冷やして駄目さ。

  そういうものかい

    それが道理さ!

  いったいどうすりゃいいのだい

    そうだ! 刻めば増えるはず!

 ずっくん、気付いておおはしゃぎ。

  しかしぼくをきざむのだれだろう

    私の友の、てっちんならば、きっと君を刻んでくれよう!

  それでてっちんどこいるの

    聞こえないかい? 彼の声。一瞬前からそこにいる。

  いわれてみればきこえてくるね

    さあてっちんや、こいつを刻んでやってくれ!

 てっちんは、何も言わずにそいつを刻みに行きました。
 そいつはどんどん刻まれながら、どんどん増えてゆきました。

  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい

 そいつはたくさんになりました。

  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい

 最初のそいつは、もういませんでした。

  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい
  ぼくがいっぱい

 やがてそいつは死にました。跡形もなく、消えました。

    ああ、やはり、私の仮説は正しかったか! 我らは増えれば死ぬのだよ!

 それを聞いたてっちんは、怒ってしまってずっくんは、気付けば二つに増えていた。

(1329文字)