●きつねのよめいり
今年もまたこの季節が来てしまいました。しとしとと降る雨やじとっとした湿気で暗い気分になりがちです。
気分転換をしようと思っても、外は雨が降っているので、出来ることは限られてしまいます。結局私の場合は適当にテレビをつけて過ごすことになってます。何かいい方法があればぜひ教えてください。
そんな中、晴れやかな気分になれるものの代表といえば結婚式でしょうか。一組の男女が結ばれる瞬間は、見ているこっちまで嬉しくなってきますよね。各結婚コンサルタントはJune Brideと銘打って、通常よりも安い価格で結婚式のサービスを提供しています。六月は女性と結婚の守護神ジュノーの月なので、この月に結婚すると幸せになれる、ということらしいです。この時期は雨の日が多く、予約があまり入らないから、値段を下げて客寄せをしようという魂胆もあるそうですが。
けれど私たちのグループは他と違うんです。その秘密はキュウコンのアオイです。写真に撮られるのが嫌みたいなので、かわいさをここで伝えられないのは残念なのですが、見たい方はぜひ私たちの事務所へ足をお運びください。いや絶対に来るべきです！ ふさふさな毛皮は一度触ったらやみつきになってしまいそうなほどで、ビロード級の毛皮のエーフィにも引けを取りません。っとと、失礼しました。とにかくアオイは私たちのアイドル、看板と言ってもいいでしょう。写真を載せられないことが本当に悔やまれます。寝ているところをこっそり収めたのですが、翌日念力でカメラを壊されてしまいました。
さて話が飛んでしまいましたが、私たちはそのアオイと共に最高の式をご用意いたします。先ほど私たちは他のグループとは違うと言いました。どこが異なるのかというと、必ず晴天の下で式を開くことが出来るのです。
アオイの特性は「ひでり」、天気が悪くても「ひでり」を持つポケモンが現れればたちまち雲が去り太陽が顔を出すのです。ただこのキュウコンは少し気まぐれな子で、ひでりの効果はその日の気分によって変わるようなのです。つまり気分が良いとそれだけよく晴れるということです。それでも幸せそうな新郎新婦の顔を見れば誰だって幸せになるもの。よっぽどカップルの仲が悪くない限り、とても素晴らしい式にしてくれるでしょう。
結婚を考えている方も、アオイに会いたい方も、営業時間内ならいつでもいらっしゃってください。もちろん予約なしで大丈夫です。アオイも面倒くさそうな顔をしつつも内心ではご機嫌に対応してくれます！
ところで先日、そのアオイの結婚式が行われました。相手はなんと色違いのキュウコン。アオイの金の毛並みも素晴らしいのですが、相手の銀の体毛もこれまた筆舌に尽くし難いものでした。二匹が結ばれるまでには人知れない苦難があったようで、私たちにその銀狐を紹介する時に、ずっとそわそわと落ち着かないようでした。どうりで最近ひっかき傷が多いと思っていたら、結婚相手を賭けてライバルと争っていたようです。
なにはともあれ、大事な仕事仲間が結婚するとなれば、それはとてもめでたいことです。祝わないわけにはいきません。そして私たちは結婚コンサルタント。いつもお世話になっているアオイにお返しの意を込めて、彼に提案しました。式の手配を任せてほしいと。
アオイはしばらく考えていましたが、やがてこくんと首を縦に振りました。
それから私たちはアオイとその相手のためにプランを練りました。ポケモン同士の結婚式はどのように進めたらいいのか、食事は何にしようか、日程は何時にしようか、などなど。おそらくみんな今までで一番張り切っていたと思います。もちろん普段からお客様の立場になって精一杯やっていますが、私たちのアイドルとなればこうなるのも分かっていただけるでしょう。
さて準備は万端に整え、ついに式の当日がやってきました。場所は彼らが出会ったという森の中の開けた広場。ここで式が開かれるのです。
けれど天気は生憎の曇り空。今に雨が降って来てもおかしくないような空模様でした。こればかりはアオイに頼るしかないようです。
しかし太陽はいっこうに顔を見せません。さらには雨がぱらぱらと降り始めてしまいました。雨が止むまで待っていようかとも思いましたが、もっと強く降っても困るということで、まだ雨足が弱いうちに式を始めることにしました。
天気も雰囲気もどことなく薄暗い中プログラムは進んでいき、ついにラストとなりました。誓いのキス、これで式は終わりとなってしまいます。雨が上がらないかと皆期待していましたが叶うことはありませんでした。
男性がアオイと銀のキュウコンの間に立ちます。
「汝は永遠の愛を誓いますか」
白いヴェールを被ったキュウコンは目を伏せ小さく頷きました。
「汝は一生彼女を幸せにすることを誓いますか」
こちらのアオイも無言で答えました。
「それでは誓いを」
それを合図に二匹のキュウコンが鼻先をこつんとぶつけます。
その時でした。
雲が割れ、太陽が姿を現しました。
一筋の光がスポットライトのように広場だけを照らします。その光景は幻想的に見えました。
それでもまだ雨はぱらぱらと降り続いています。
不思議に思ってアオイの方を見ると――彼は笑いながら泣いていました。
射し込む光は満ちる幸福、注ぐ雨は喜びの涙。
まさに「きつねのよめいり」でした。
後で聞いたところでは、アオイは緊張のせいでひでりの力を発揮するどころではなかったそうです。それが最後のキスがきっかけで全ての緊張が解け、こういった演出を生み出したということでした。
長い記事となってしまいましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました。もし私たちに興味をお持ちになられたなら、下にホームページのアドレスとQRコードを載せておきますので、そちらも覗いてみてください。それではこの辺りで失礼します。
【http://www.aoi_weddingplanner.jp/】
（2441文字）
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●作者メッセージ（作：穂風湊さん）
くぉーん！ 穂風湊です。
一次募集の後、Twitterで「ホカゼさんならキュウコンを書くと思った」と言われ、はっとしました。その手があったか！と。まったくの不覚でした。しかし二次募集まではまだ1週間ある、ここで書かなければキュウコン書きとして名乗れない。そういうわけで書いたのがこちらでした。
結婚式のお手伝いをするキュウコン――を紹介するブログの記事。会社の紹介なのか、キュウコンのアオイの紹介なのか、はたまた結婚式の話なのか、伝えたいことがありすぎてごっちゃにしてしまったようです。とりあえずこの会社とは昼夜を通して話し合うことができそうです。
キュウコンがいる結婚式っていいですよね。この子が会場にいるだけで新郎新婦を始め皆が笑顔になれる気がします。晴れになるのはもちろんのこと、可愛いですし！ むしろキュウコンと結婚しｔ――
ところでキュウコンの体重は知っていますか？ なんと19.9kgなんです。つまりその気になればお姫様抱っこだって出来ちゃうんです！ いいですよね、ヴェールを被ったキュウコンを鐘の前で抱え上げてあげるの。焼かれてもいいので一度やってみたいです。
と、そろそろ「あとがき」が「あとがき」でなくなってしまいそうなので、この辺りで失礼します。
ここまで読んでくださりありがとうございました！
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