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【応募作品一覧】 ◇文芸| 010203040506070809101112| ◇イラスト| 01

初版公開:2013年6月16日


●モノクロとカラフルの世界

「色がね、見えないの。私の世界は白黒になっちゃった」
僕の初めてパートナーになった君は、僕にこう言った。知ってる、だから僕は君の所に来たのだから。何も答えない僕に、君はそのまま言葉を続けた。
「でもね、ヒトモシの光が照らしてくれたところだは色が見える気がするの。不思議ね」
その言葉に僕はまた何も答えなかった。

その目で、僕の照らした景色がカラフルに見えたその時は………。

「ねぇ、ヒトモシ!!聞いて!また色がきれいに見えるようになったの!最近世界が綺麗…」
ふわりと笑いながら僕に話しかけてくれる君。どこに行くにも僕を連れて行ってくれた。ふと空を見上げると、この季節に見られる七色の橋。
「虹」
一言そう君に声をかけた。初めて声を出したかもしれない。
「どこ、?」
梅雨の合間に出た、虹。きれいな七色だ。
「に、じ」
もう一度、ゆっくりの言った。僕の間の前にはきれいな虹が見える。端から端まで、ちゃんと見ることができる。
「んー…?見えない、んだけど」
そういってきょろきょろする君。僕の視線をたどっても虹を見ることはできないみたい。そっか、まだ見えないんだ。良かった。

それから君は病院に入院してしまった。外に出かける機会も減ってしまった。
僕は君とのお出かけがすきだった。何を見るにもきらきらとした顔をしていた。そのきらきらとした笑顔を見るのがすきだったんだ。ずっと見ていたかったし、その笑顔のきっかけを作っているのが僕で。
病室の窓から外を見れば、さっきまで降っていた雨が上がって、虹が出ていたんだ。葉についた雫は日の光をあびてきらきら光っているし、水たまりは空にかかる虹と青空を映していた。雨上がりの世界はまるで雨に穢れが流されたようで。普段は気が付かないようなところにある蜘蛛の巣でさえ水滴が付き、きらきら輝いている。カラフルな世界。君が、見ることのない。
この世界はきれいな色にあふれている。でもその色が見えるようになったら…。
まだもう少し、まだもうちょっとだけ………。
「虹なんて、最後に見たのはいつだっけ…?」
そうつぶやいた君に、僕が声をかけることはなかった。
景色、風景、…何もかもが足りないと、君は言った。色が足りないだけでこんなに世界が暗く面白くなくなるなんて。でも、お星さまにお願いするなら、最後に一番綺麗な虹を、カラフルな風景が見たい。と君は言った。
その願いはきっと叶う。だって君が最後に見るのはおそらく…………。

今まで見られなかった鮮やかな世界と、
これ以上ない絶望の世界。

それから何年かたった。まだ病院で過ごしているのは変わらない。
君は相変わらず色づいていく世界を見て喜んでくれた。君を喜ばせているのが自分だというのがとてもうれしかったし、誇らしかった。春の桜、初夏の雨上がり、夏の入道雲。秋の紅葉に、冬の雪景色。そんな風景を色の足りない世界ででも、見て喜んでくれるのはうれしかった。そして、それ同時に僕は自分の本来の役目を、投げ出したくなった。

「あ、虹…でてたりする?」
雨上がりの空を見上げて君が僕に聞いた。
ふと僕も空を見れば、うっすらと虹がかかっていた。ひやりとした。虹が、見えてきてるなんて。
「に…じ」
「あれ、?出てない?うっすらかすかになにかがあるような感じがするんだけどなー」
そういって君は窓から視線を外して本を読み始めた。それでも僕はその虹から目を離すことができなかった。そういえば最近、きれいに見えるようになったって、言わなくなった気がした。前はあんなに喜んでくれたのに、なんで。もしかして、もしかして。
「あ、入道雲だ。ひまわりが綺麗に咲いてるよ、ヒトモシ。見てみなよ!」
向日葵、入道雲。それはあった時には目もむけなかった、もの。向日葵は特に、色がないのに花を見ても仕方ないと言って、見ようともしなかったのに、なんで。僕に、なんでそれを見てと、言うの?
視線を君のほうに向ければ、向日葵なんでなくて。入道雲も、ない。見えるのは、雨上がりの景色。
「あれ?だまされた?まだ向日葵の季節には早いよ?今は…そうだな、紫陽花かな?」
そういって笑うのをみて、いらないしんぱいだったかな、と思い君のそばに行って、君の見ている図鑑を照らした。その図鑑には向日葵のページが開いてあった。
「ねえ、ヒトモシ。この向日葵、きれいな色をしているの?」
その質問にも、僕は答えなかった。なにも、言えなかった。その向日葵を、きっと見ることができないだろう、なんて。
「きれいに向日葵、咲いたら見に行こうか」
そういって笑う君に、そんなことは、言えなかった。

それから、数日後のこと。土砂降りの雨が降った。君の顔色も少し悪い気がした。僕は君のそばで、雨が降り暗くなっている部屋を照らしていた。少しでも、長く、そばに。そうしてしばらくそのままで時間が過ぎていった。
「…あ!雨あがった?」
君が声を出し、窓を開けた。
「…わぁ!きれいな虹!こんなにきれいな虹、見たことない!ねぇ、ヒトモシ」
声をかけられて、もうダメなんだと思った。
「虹」
そう一言、君に声をかけた。夏はまだ来ない。
「そう、虹だよ!きれい…」
そういって窓から身を乗り出して虹を指さしている。
「虹、」
そういって僕は病室を出た。
「ま、まって!?ヒトモシ!?」
慌てて僕を追いかけてくる君に、うれしく思いながらも、悲しくなった。ついてきて、ついてこないで。だって、僕を追いかけていく先は……
「ヒトモシ!?ねぇ?どこにいくの?ねぇ…っ」
この先にあるのは、決してきれいな虹なんかじゃなくて。
「ヒトモシが照らしてくれないと、世界は白黒のまま、色なんて無いのっ」
ついてこないで、照らしているのは、全部全部きれいな世界なわけじゃないんだ。
「この先には、綺麗な世界があるんだよね?」
「それは、違うんだよ」
君の問いかけに、初めて答えた気がした。
「ちが、うの?」
足音が止まったことに安心して振り返れば、
「ヒトモシが照らしてくれてた世界は、きれいだったよ?」
一歩一歩、近づいてくる君に、やめて、こないで。と思っても手遅れで。
『ここは死の世界。ようこそ、白と黒の色のない世界へ』
僕の仲間が君を囲んで、ふわふわと揺れる、僕たちの出す光が、あたりを照らす。いくら照らしてもカラフルな世界なんかなくて、白と黒の世界。
「ヒトモシ?ねぇ、ここは…」
そう問いかけてきた君に、
ごめんね。
声にならない声をかけて、僕は自分の火を消したんだ。

それから雨の日に、モノクロの世界にいる君に、僕は何度も会いに行った。
ぽたり、ぽたり。あぁ、まだ。
ぽたりぽたり。上から雨が降ってくるんだ。
ここは家の中で、屋根があって、雨なんて降るはずないのに。
「嫌い、嫌いよ」
真っ暗な部屋の中、ぽつりとつぶやく声がした。
「もういや。なんでなの?」
ぽたり、ぽたりと雫が落ちてくる。
泣かないで。
そう言いたいのに僕の声は、君に届けるわけにはいかなくて。
「私が、悪かったんでしょ、?」
ぽたぽたと、落ちてくる雨は君の涙で、僕はその涙を拭うことも、できない。
だめだよ、泣いてちゃだめ、笑ってよ。僕は君の笑った顔が大好きなんだ。
「なにも見えないの。ヒトモシがいなくちゃ、何も見えない」
真っ暗な部屋の中なんだから、僕は関係ないんだよ?
「ねぇ、やだ…こんなの、やだ」
だめなんだ、僕は君に近づきすぎちゃった。
君が見たいと言っていた向日葵を、一緒に見ることは、もうできない。

僕の仕事は、カラフルな世界からモノクロの世界、人を死の世界に案内すること。
仲良くなりすぎて、情が移るのはタブーな世界。
僕の大好きだった君へ、たくさんの友達を連れていくから。さみしくないから、たまには会いに行くから。
だから、どうか泣かないで。

モノクロもカラフルも、あまり変わらないと、僕は思うのに。

(3147文字)

●作者メッセージ(作:さくさん)

はじめましてのかたが多いと思います、さくです。今回リライトしていいよーとのことだったので、モノクロのリライトを書きました!(※運営注:リライト前の作品→『モノクロ』) 文字数を勘違いしててですね、ざっくざっく文章を切り取っていたらわけがわからなくなってしまったので…。文章を大幅に増やしました!少しでもわかりやすくなってればいいなぁと思います。暗い感じの話はあまり書かないので苦戦しますね。大変でした。それでは、読んでくれてありがとうございましたっ!