●トサキントにのって
▼ 作:焼き肉 さん
おかあさんといっしょになつまつりにいった。
ピッピやヤンチャムのかいてあるビニールぶくろにはいったわたあめ。
ゴーリキーにソックリなおおきなおじさんがつくっているヤキソバ。
ピカチュウのほっぺみたいなリンゴアメ。
そのどれもがおいしそうに、たのしそうにみえたけど、いちばんきになったのは、トサキントすくい。
ちっちゃなちっちゃなトサキントが、おおきなビニールプールのなかでおよいでた。
わあかわいい、ってのぞきこんだら、リングマみたいなおじさんがやっていくかいって言った。
おかあさんにやってもいい? ってきいた。いっかいだけよ、っていわれた。
わたしはゆかたのそでをまくって、もらったかみをはったトサキントをすくう、ムシメガネみたいなものをかまえた。
すてるわけじゃないけど、ポイっていうんだって。
すずしそうにおよぐトサキントたちとめがあう。
ちょっといろっぽいかおをしていた。
わたしは、そのめがあったトサキントにしょうぶをいどむきもちで、ポイをトサキントのからだのしたにいれる。
トサキントがコイキングみたいにはねた。
そうして、わたしがもうかたっぽうのてでもっていた、トサキントをいれるふかいおさらにはいってしまった。
「おやおや、このトサキントは嬢ちゃんのことが気に入ったみたいだなあ」
リングマのおじさんは、じぶんからわたしのもっているおさらにはいっちゃったトサキントをみてにこにこしている。
わらうとますますリングマにそっくりだった。
トサキントがピチピチはねてくるしそうだったから、わたしはあわててビニールプールのなかのおみずをおさらですくって、トサキントのはいっているおさらにいれてあげた。
おみずをいれてあげると、ちっちゃなトサキントはひろくないおさらのなかをすいすいとおよいだ。
◇
かえりみち、おみずのはいったビニールのふくろにはいったトサキントをみながら、こんなにちっちゃいなんてへんなの、ってわたしはいった。
テレビでみたジムリーダーのみずぎのおねえさんのもっていたトサキントはもっとおおきかったからだ。
「そのトサキントはね、ミズキとおなじでまだ子どもなのよ」
だから、おおきくなるまでかわいがってあげなさいねっておかあさんがいったから、わたしはうん、ってへんじをした。
◇
トサキントのおうちは、とりあえずきんぎょばちになった。
すぐにおおきくなるだろうから、もうすこしおおきなすいそうをかってきて、どろぼうニャースにはんげきできるくらいになったら、おにわのおいけにはなしましょう、っておかあさんはいった。
「とりあえず」のおうちにはいったトサキントは、まあるいきんぎょばちのなかをすいすいおよいだ。
わたしがゴマをごりごりするときにつかうぼうといれものをつかってこまかくしたポケモンフーズをいれると、すいめんにかおをだして、こまかくしたポケモンフーズをパクパクした。
いろっぽいめがニコニコしたきがしたから、わたしもわらった。
とおくではまだおまつりのたいこのおとがしていた。
◇
わたしが台に乗らなくてもれいぞうこのアイスが取れるようになったころ、トサキントも大きくなった。
トサキントはお庭のお池にお引っ越しして、おうちでお話が出来なくなった。
だからわたしは学校から帰ると、トサキントの泳いでいるお庭のお池のほとりに座って、ポケギアのラジオをつける。
いっしょにテレビが見れないトサキントと、いろんなことをしたいなあというわたしなりの考えだった。
『なるほどー、PN・オタマロ大好きさんは本当に水ポケモンとオタマロを愛しているんですねー。
私もオタマロは結構好きですよ、愛嬌があって。
なつくとなんでもかわいくなっちゃいますよねー。
逆に私の近所にすんでるあばれんぼうの野生のコラッタなんかは、
見た目はかわいくてもおっかなくておっかなくて・・・・・・おっと、DJが愚痴ったらいけませんね。
マーイーカってことでゆるしてくださいな。
次の曲はPN・オタマロ大好きさんリクエスト、「ラプラスにのって」です』
ラジオからおだやかなのに泣きたくなるようなメロディーが流れてきた。
ラプラスが時々きゅーんと鳴いているその曲は、何故かわたしも海にいるような気分になってくる。
海。わたしの住んでいるこの町には、川も池も沼もあるけれど海はない。
聞いたことはあるしテレビでも見たことはあるけれど、実際に行ったり、見たことはなかった。
キラキラと空と同じ色をしている海の水は、お母さんがお料理に使う塩の匂いがするらしい。
そもそも塩は、海から作るものなんだって。
海の上でキラキラしてるのを集めて来たのかと思ってたけど、学校で違うんだって習った。
その時はガッカリしたけれど、海への憧れは消えなかった。
わたしもこの歌みたいにどこかへ何かを探しに行きたいと思った。
優しいお父さんとお母さんと、きれいな尾ひれのトサキント、面白いお友達。
それが嫌なわけじゃないけれど、トサキントと二人だけで、どこまでも行きたいと思った。
『んー、いいですねえ、この曲。
私も仕事を投げ出して、ラプラスにのってどこかに行ってみたいですよー。
あはは、ウソウソ、このラジオを聞いてくださっている皆さんが、私は大好きですからねー。
ポケモンにそっぽを向かれたってショックなのに、みなさんにそっぽを向かれたら、驚いたゴニョニョみたいに大声で泣いちゃいますよー。
え? お前はゴニョニョじゃなくてバグオングだろうって?
それはいいっこなしなし!!
では、みなさんドシドシリクエストはがき送ってくださいねー!
お便り、首をキリンリキにしてまってまーす!!!』
リクエスト番組が終わって、今度はマジメなニュースが流れ出した。
明日の天気はどこも晴れみたい。
頭に浮かんだ地図の上に、ソルロックがいっぱいふゆうしていた。
ポケギアをいじって別の番組に周波数を合わせていると、トサキントがぴょん、ぴょん、とはねていた。
なにかをわたしに伝えたいみたい。
「トサ、キント、トサキーン!!!」
トサキントは池の中に潜って、もう一回顔を出した時には背中に小さな石を乗せていた。
その石を乗せたまま、トサキントは池の中をすいすい泳ぎ回る。
「・・・・・・もしかしてわたしのことを、乗せてくれるの?」
「トサキーント!!」
正解だったらしく、トサキントは芸をするテッポウオの動きできれいにはねた。
ザブンと水しぶきが飛んで、服がぬれる。
なんだかいい気分。
トサキントもあの曲を聞いて同じ気分になってくれたんだ。
私とトサキントの周波数は、ピッタリみたい。
「・・・・・・うーん、でも、もうすこし大きくならないと、乗るのは無理かなあ」
「トサキーン・・・・・・」
わたしもあんまり大きな方じゃないけれど、トサキントは私よりもっとちっちゃい。
平均的なトサキントは〇.六メートルまで育つそうだけれど、わたしのトサキントは〇.五メートルくらいしかない。
お魚大好きドロボウニャースを追い払うには十分な大きさではあるのだけれど。
「もっともっと、大きくなったら、わたしを乗せて、海を渡ってくれる?」
「トサキーン!」
わたしが期待を寄せると、きれいなひれがシャキンとして、くるくると池の中を動き回った。
これは期待できるかなあ。
「よーし、大きくなるために、一緒におやつを食べよう!」
「トッサキーン!」
お庭に出るときに持ってきていたドーナッツを半分、トサキントにあげると、明らかにテンションがあがった。
◇
先に結論を言えば、私のトサキントは私を乗せられるほど大きくはならなかった。
後で知ったのだけれど、トサキントの進化系であるアズマオウの平均的な大きさは、一.三メートル。
おやつの効果があったかは知らないけれど、わたしのトサキントだったアズマオウは、一.四メートルまで大きくなった。
アズマオウとしては大きい。
でもそこそこ大きくなって、これは関係ないけれど出るとこは出てへこむところはへこんだ私を、
ラプラスのように乗せるには、大きさが足りなかった。
だけど、私もただトサキントが大きくなるのを待っていたわけじゃない。
泳ぐのだって上手になったし、海の素敵なところも、怖いところも、いろんなことを調べて知った。
「さー、行くよアズマオウ、海の旅へ! 頑張って掴まるしうっかり手離しても頑張って泳ぐけど、溺れた時はお願い!」
「オーウ!!」
大きくなったアズマオウは、雄叫びのような返事をして──。
「目指すはまだ見ぬ知らない街!!」
水着の似合う、『ビキニのおねえさん』に『進化』した私は、
アズマオウの背中に掴まりながら、小さな頃に思い描いたものとは少し違う、海の旅へと繰り出した。
◇