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幸福の形(仮題)

序 / 一 / 二 / 三

■ 序

 飼い犬は飼われる自らを幸福と思うのだろうかと、召使はふと思う。

 飼われる彼らに自由はない。飼われた瞬間から自由はない。首輪ひとつで主人に繋がれ、自由はその手に奪われる。どこへ行くにも首を戒める綱が邪魔をする、食事ひとつさえ主人の施しを待たねばならない。餌を与えるも与えないも、すべては主人の思し召し。肥え太らせるも飢え死にさせるも、すべては主人の手の中だ。
 もしも野生にあったなら、空気がそこにあるように当たり前の行為に過ぎない。それを施されることは幸福なのか。生来の権利を許されたことを幸福と思わなければならないのか。彼は疑問に思う。奪われた時点でふたりはもはや対等ではないのだ。それでもなお、飼い犬は与えられる自らを、飼育される自らを幸福と思うのだろうか――


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